私が塾を続けている理由は、二つの経験に集約されます。一つは、中学2年生のときに塾と出会い「考えれば解ける」という感覚をはじめて知ったこと。もう一つは、大学生のときの事故で「自分が人生をかけてやることは何か」を問い直したことです。この二つの経験が重なって、いまの学習塾ソートアップがあります。
中学2年で塾に出会い、人生が変わった
中学生のころの私は、学校の成績がよくありませんでした。「自分は賢くないのだろう」という気持ちが先立っていて、高校に進学できるかどうかすら、正直なところわかっていませんでした。
転機は中学2年生のときに塾へ通い始めたことです。そこで指導を受けるなかで、数学というものが「考えれば解ける」ものだとわかりました。それまでの私は、数学をただ暗記するものだと思っていたのかもしれません。やり方がわかると解ける。そのことがわかっただけで、問題への向き合い方が変わりました。
中学3年生には学年トップの点数を取るようになりました。成績の低さは能力の問題ではなく、方法の問題だったということです。
「勉強ができるようになった」という感覚は、その後の自分の見え方を大きく変えました。あのとき塾が教えてくれたのは、数学の解き方だけではなかったと、今になって思います。
この経験が、学習塾ソートアップを開いた根本にある動機の一つです。「自分は賢くない」と思い込んでいる子どもに、「考えれば解ける」という感覚を届けたい。その思いは、開業から12年が過ぎたいまも変わっていません。
大学時代の事故 — 「人生を懸けてやること」を問い直した
大学に入った私は、システムエンジニアになることを考えていました。ITに強い関心があり、Webアプリケーションの開発を学んでいました。アルバイトで塾講師もしていて、子どもに教えることの手ごたえも感じていましたが、当時の進路としては、エンジニアとして仕事をすることが最も現実的な選択肢でした。
大学生のとき、事故にあいました。頭蓋骨骨折の重傷で、死んでいてもおかしくない状況でした。事故時の記憶は残っていません。
回復していくなかで、生と死について考えるようになりました。プログラムを書いてツールやゲームを作ることは好きです。ですが、それだけでいいのか。自分が人生をかけてやることは何か、という問いが、以前より具体的な重さを持って自分の中にありました。
「得意なこと」と「楽しいと感じること」と「社会に影響を与えられること」——この三つが重なる場所を、真剣に考えるようになりました。
答えはそれほど遠くにはありませんでした。私が得意としているのはITです。楽しく続けられ、社会に影響を与えられると確信できたのは教育でした。この二つを合わせることが、自分のライフワークになると思いました。
なぜITと教育の両立にこだわるのか
2014年2月、学習塾ソートアップを松山市内で開業しました(2025年7月に現在地の松山市東雲町へ移転)。「考える力を育てる」という方針は、開業当初から変えていません。
元ソフトウェアエンジニアとしての経験は、指導の現場に直結しています。プログラミング教室やITパスポート対策講座を設けているのも、ITと教育の両立という開業当初の考えから来ています。
一方で、「ITと教育を合わせる」という発想は、単に教える科目を増やすということではありません。教育の現場でITがどう機能するか、学習者にとって何が本質的な支援になるかを、実践と研究の両輪で考え続けることだと思っています。
授業の中で私がしていることは、おおよそ三つの判断の繰り返しです。「この問題はこの子が考えれば解ける」と判断したときは答えを教えません。行き詰まっているときはヒントを出します。どうしても糸口がつかめないときは、考え方の過程ごと説明します。どの判断をするかは、目の前の生徒の表情と手の動きを見ながら決めます。
これは集団授業や映像授業では難しいことです。対面で個別に向き合っているからこそできる判断です。ITに詳しいからといって、機械的な処理でこの判断は代替できません。むしろ、この判断の仕組みを数学的にモデル化しようとしているのが、現在の博士研究のテーマの一つです。
12年続けて、いまも研究を続ける理由
2025年4月から、愛媛大学大学院理工学研究科の博士後期課程に在籍しています。研究テーマは「生涯を通して関わるAIチューターの数理モデル」です。
AIが将来、私たちのような塾講師の役割を補完したり、一部を代替したりする可能性はあります。だからこそ、そのAIは教育の役目をきちんと果たせるものでなければならないと思っています。子どもが大人になり、社会に出てからも使い続けられる学習支援の仕組みとはどういうものか。これが研究の核心にある問いです。
研究室での問いは、翌日の授業設計に直結します。授業での生徒のつまずきは、研究への問いを生みます。研究と指導の往復が、今の私の仕事の形です。詳しいプロフィールと研究の背景については塾長プロフィールページをご覧ください。
博士号を取得した後も、塾を続けるつもりです。県内の大学に勤める可能性はありますが、塾が私の本業であることは変わりません。研究はその本業を深めるためのものです。
万が一、病気や怪我で対面授業が難しい状況になっても、オンライン授業ができる環境を整えています。動画での反転授業も導入しており、AI活用の学習サポートも備えています。長く通ってもらえる塾でありたいと思っているので、こうした備えは開業当初から意識してきたことです。
子どもたちに伝えたいこと
私が塾で一番伝えたいことは、「苦手」と「できない」は違う、ということです。
中学生のころの私がそうでしたが、「自分には向いていない」という思い込みは、多くの場合、つまずきの場所を見つけられていないことから来ています。どこでわからなくなったかを一緒に探し、そこから整理していけば、状況は変わります。
以前、数学をひどく苦手としていた高校生の指導をしたことがあります。単元を遡りながら理解の土台を整えていくうちに、解ける問題が増えていきました。高校2年生になるころには、数学が本人の最も得意な科目になっていました。その後、薬学部に進学しました。
目先の問題を解けるようにすることは、指導の手段の一つです。でも、それだけを目指すと、高校数学のある段階で行き詰まります。「なぜそうなるのか」を理解して考える習慣が身についていれば、初めて見た問題にもアプローチできます。この力は、大人になってから直面する問題解決にも使える力です。
AI時代に何が求められるかという議論がありますが、私は「考える力」そのものだと思っています。暗記で解けることをAIに任せるとしたら、人間に残るのは、情報を組み合わせて判断し、新しい問いを立てる力です。その力を育てることが、教育の本来の仕事だと考えています。
だから私は塾を続けています。中学2年の私が塾に救われたように、目の前の一人ひとりに「考えれば解ける」という感覚を届けたい。その思いが、12年間変わらない、この塾の芯です。